米中対立は「ポスト・ネオコン」戦略 = 宣伝戦争「理想対決」

「中国に立ち向かうには、≪ポスト・ネオコン≫戦略が必要だ」 by ステファン・ハーパー
Study of History
投稿者:ウエダ 投稿日:2010年11月 5日(金)18時53分38秒
http://8706.teacup.com/uedam/bbs/9172


 こんばんは、皆さん、植田です。

 『北京コンセンサス』ですが、めぼしいところを、ざっと読了しました。


 で、さきほど、米中対立は21世紀の「グレート・ゲーム」として見たらどうか、と自問したのですが、アメリカ人の中にもこれをやっている人たちがいました。
 どうやら、「グレート・ゲーム・ウォッチャー」と呼ぶようです。


 この人たちが注目するのは、米中の「ヘゲモン」のクラッシュです。
 日本語で「覇権」の戦いです。
 武力、経済力、政治力などの優位さを競う戦いで、いかに自国が他の諸国に影響力を与えることが出来るか、の競争です。


 しかし、ステファン・ハーパー氏は、これは間違いだ、とあっさりと否定しました。
 なぜか。
 軍事力のアメリカの優位は、圧倒的である。
 中国がいかに経済成長していると言っても、現段階での経済力のアメリカの優位は、誰も間違いようがない。
 だから、米中のクラッシュは、「グレート・ゲーム」にはならない、と。


 ちなみにハーパー氏が「グレート・ゲーム」の実例に挙げているのは、19世紀から20世紀にかけてのイギリスに挑戦した当時の新興国・ドイツのウィルヘルム2世の場合です。あの時は、グレート・ゲームだった、と。
 で、西洋圏は第一次世界大戦に突入。
 それで西洋諸国が戦争にうんざりした時に、ヒトラーが登場。
 ミュンヘン一揆を起こしたり、総統になったり、ドイツの再軍備を進めたりしても、戦争には飽き飽きしていたので、ヒトラーの台頭の意味を見のがしてしまった、と。
 そして1938年のミュンヘン会談。
 ヒトラーの野心をイギリス、フランスが見抜けず、ズデーテン地方のドイツ帰属問題をヒトラーの思い通りにさせてしまった。


 欧米圏では、「パワー・ポリティクス」の問題では、必ず政策立案の際に参照されるミステークの事例になっています。「あのとき、ヒトラーを止めておけば・・」と。


 で、そういう次第で「グレート・ゲーム」の視点から米中クラッシュを見る、という立場は成り立ちませんでした。
 現実的に見て、「パワー」競争では、アメリカのほうが圧倒的に優位であるためです。


 そこでハーパー氏が提案するのが、「ポスト・ネオコン」の新しいアプローチだ、と言います。
 では、それはいかなるものか。


 というと、まず、現在、なぜアメリカが中国の台頭に脅威を覚えているか、です。
 軍事でも、経済規模でも、圧倒的優位にあるアメリカが、中国の何に脅威を感じているのか?


 中国流の新しい資本主義が、低開発国を浸食していることでした。
 アメリカは1980年代から「ワシントン・コンセンサス」によるグローバル経済戦略を世界展開してきましたが、これが、たとえば、1997年のアジア経済危機で失敗しました。
 中国は、このアメリカの失敗をついてきた、とハーパー氏が言います。


 経済を成長させるには、アメリカ流方法ーすなわち、IMF世界銀行の融資を受ける代わりに、経済学者ウィリアムソンがまとめた西側流経済政策の方法(ワシントン・コンセンサス)を受け入れろーという方法とは別の形がある、と。
 それは中国の融資を受け入れることだ。中国は、その政権が独裁であっても、自由市場でなくても気にしないし、うるさく口出しもしないから、と。


 この中国のアンチ・アメリカ流資本主義がアメリカを脅かす、と。
 中国の脅威は、いきなりアメリカに攻撃を仕掛けてくるのではなく、時間をかけて、低開発国を中国圏に引き入れて行くその方法だ、ということです。


 では、この中国の対米戦略に対して、アメリカはどう立ち向かうか?
 それが「ポスト・ネオコン」戦略なのですが、その戦略の中核は、軍事力でもなく、経済力でもなく、宣伝戦争だ、といいます。自分の理想とするところを世界に普及させる、と。


 たとえば、言論の自由、集会の自由。
 アメリカ人が当たり前のことだと見なす民主主義のルールが、中国政府には恐怖に映る、と。これを利用せよ、と。


 CHINA'S GREATEST FEAR =AMERICAN IDEAS


 インターネットでコミュニケーションが容易になった現代世界における戦いは、アイデアと影響力の戦いになる、とハーパー氏が述べています。
 アメリカは、自分自身の信念を強く保持し、世界に示せ。これが新しいポスト・ネオコン戦略になる、と。


 私は、この場合の「アイデア」を、「理想」という日本語にしたらいいのではないか、と思います。
 こうすると、これからの米中の対決は、「理想をめぐるクラッシュ」となります。
 いいではないですか。


 たとえば、政体は中国流の一党独裁のほうがいいのか、アメリカ流のデモクラシーのほうがいいのか、
 経済成長して、言論の自由がある社会のほうがいいのか、それとも経済さえ成長すれば、言論の自由はなくてもいいのか。
 米中の社会のありかたの違いをどんどん世界に訴えろ、です。


 これを名づけて、「理想対決」です。

 こんな具合にアメリカが中国と宣伝合戦(プロパガンダ戦争)をしてくれれば、日本人にも自分の立場が明瞭になる、というものです。


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学ぶことの楽しさをお教えくださった記事でした。
ウエダさん ありがとうございます。(Mapple)
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