日本の政界、国民とずれた不協和音フィナンシャル・タイムズ


フィナンシャル・タイムズ 2011年6月2日初出 翻訳gooニュース) ミュア・ディッキー東京支局長
http://news.goo.ne.jp/article/ft/politics/ft-20110603-02.html

皇帝ネロは、ローマが燃えるかたわらで楽器を弾いていたと言われる。日本の政治家たちが奏でる音色はもっと耳障りだ。彼らは諍(いさか)い、たくらむばかり。


派手な政治ドラマと低劣な政争茶番が繰り広げられた2日、日本の菅直人首相は内閣不信任決議の成立を免れた。決議案がもし可決されていれば、任期1年未満で退任するところだった。しかし首相が勝ったからといって、世界第三位の経済大国の政治がもっと協力的で生産的なものになるなど、ほとんど期待できない。


与党・民主党はひどい分裂状態にある。そして、いつのことか曖昧な未来のとある時点でいずれ退任するという菅首相の(デルフォイの神託のように)分かりにくい約束について、民主党関係者らはたちまち、誰の説明がどう違っているいないのと批判合戦を始めた。一方で(参院支配によって実質的な法案拒否権をもつ)野党は、できる限り早く総理を退任させるため動きを強めていく姿勢を明確にした。
...(中略)


与野党の協力はただちに必要だ。2万4000人もの人が亡くなるか行方不明となった津波によって、東北地方沿岸部では何十万人もの人たちの生活がひっくり返った。この人たちの苦しみに応えるには、新しい立法措置と明確な指導力が欠かせない。


それに加えて、福島第一原発の危機があり、拡大する避難圏の問題がある。混乱する経済活動の問題もある。どれだけ安泰な政権だったとしても、大変な難問山積の状態に違いない。10万人近い人が未だに避難所で生活しているのだ(8月までに全員が仮設住宅に入居できるように取り組んではいるものの、うまくいっていない様子)。
...(中略)


政治家はなぜ被災地支援にもっと集中しないのか。
一部が壊滅した南三陸町の佐藤仁町長のこの問いは、大勢の声を代弁している。佐藤町長はNHKに対して、「今回の政局の動きについては、私だけでなく、被災をされた皆さんも腹立たしく思っているはずだ」と話した。


野党リーダーたちは、菅首相のまずいリーダーシップこそがこの危機克服にとって最大の障害だと力説する。確かに首相は、国民の信頼を維持することも、沿岸地域のコミュニティー再建に向けて明確なビジョンを示すことも、十分に出来ていない。


...(中略)...2日に繰り広げられたような騒がしい権力のつかみ合いは、何の役にも立たない。たとえ日本の政治家には復興への道案内ができないのだとしても、せめて騒音ではないもう少しましなBGMを流してもらいたいものだ。

(翻訳・加藤祐子