アカデミー賞の最高作品賞“The Departed.”
アカデミー賞・最高作品賞の評価は日本でのあまり高くなかったようである。いくつかのコメントを読んで、そんな印象を受けた。
最高作品賞が“The Departed.”なんてがっかりという声もけっこうある。中国のオリジナルの方がよかったという意見も読んだ。
「バベル」のほうが人気が高いのではないか。ほんとうにいい映画だし内容も深い。日本では考えさせる作品の方が評価が高いのかもしれない。
“The Departed.”は、確かに大衆娯楽作品のカテゴリーに入る。
最高作品賞の他、監督賞、脚色賞、編集賞もベストに選ばれた。
監督、脚色、編集で受賞したことを考えると、この作品賞は映画作りの分野で評価されたと言えるのではないか。
アイリッシュ・マフィアと州警察。それにFBIが絡む。
マフィアの元祖はイタリア系だが、今はロシア系マフィア、中国系マフィア、中南米系マフィア、アフリカン・アメリカン系など、いろいろな人種に別れているそうだ。
その中でアイリッシュ・マフィアはあまり映画には登場してこなかった。アイリッシュといえば、警官、消防士が圧倒的に有名で事実アイリッシュの人が多い。今回のように警官も、そしてマフィアもアイリッシュという設定は新鮮であった。
また、地元警察とFBIとの葛藤はよく題材に使われるので、地元警察がFBIにほぞを噛む心情も伝わり易い。
せりふのたたみこみかたは実に軽妙であった。事実せりふもよかった。洒落ていたし、なにげない言葉にぐさっとくるものもかなりあったと思う。編集もスピード感があったし、危機一髪のスリルがあちこちにちりばめられて、観客を映画の世界に引きずりこんでいく。
マフィア側、州警察側、主人公2人にからむ女性の全貌を知っているのは観客だけ。観客が知らなかったのは(登場人物たちも同じだが)FBIの動きだけ。
そして、疑い、疑われ、命がけで探り合った結果、最後は間違った相手を信じる。警察は「ラット」=マフィアのイヌ(スパイ)を信じ、マフィアのボスは警察の「ラット」を信じるのだ。
世渡りに長けた風見鶏の若い刑事。これがマフィアのイヌだったのだが、警察のキャプテンは彼を可愛がって信じている。よく身のまわりでありそうなことではないか。
マフィアのボスは一番正直な人間を信じたが、それは警察のラット。
真実をしるものはどこにもいなくなるのか・・・・
役者は圧倒的にジャック・ニコルソンが存在感を発揮した。このところロマン・コメディーが多かったが、三枚目の味を残しつつ、凄みのあるところを見せた。
それにマット・デイモン。常に頭を使わないとならない役はぴったり。地味なマーク・ウオールバーグが反骨精神をだして光っていた。レオナルド・ディカプリオはかなり頑張ったが、頑張っていることを観客に悟られるあたりが今ひとつ惜しかった。
人間の根元に迫るシリアスな題材ではないが、映画作りの面で最高作品賞になっても充分説得性はある。映画の世界にどれだけ引き込む力があるか、そこに力点を置いた今回の選考は私としては満足であった。