昨晩のアカデミー賞中継で最も感動的だったのは

Mapple2006-03-06

第78回米アカデミー賞受賞式が5日、当地で行われ、最優秀外国語映画賞には南アフリカの「ツォツイ」が選ばれた。
 同作品は赤ん坊を誘拐してしまったことにより、人の命の重みについて学んでいく青年を描いたヒューマン・ドラマで見事、外国語映画賞の栄冠に輝いた。
(2006年 ロイター/Mike Blake)
写真:Kenneth Nkosi as Aap, Presley Chweneyagae as Tsotsi, Zenzo Ngqobe as Butcher and Mothusi Magano as Boston in Miramax's Tsotsi - 2006

外国語映画賞「ツォツイ」Tsotsi(南アフリカ)が受賞して、ギャビン・フッド監督が舞台にあがる。オスカーのトロフィーを手にしっかり握り締め、監督は"God bless Americaをもじって、
「"God bless Africa!" 神よアフリカに祝福を!
この我々の映画の話は他の映画と同じ物語、それは人間の「心」を描いたものです。....この映画ができたのはこの子たちのお陰だ。カメラ、彼らを撮ってくれ!さ、みんな、立つんだ。立って。カメラ写してくれ、彼らを!」と叫んだ。
カメラは最初は斜めから、次にアングルを変えて真っ正面から少年、少女、立ち上がった子役たちを写す。黒い大きな瞳で無邪気にまっすぐに舞台の監督を見る南アフリカのかわいい子役。もちろん大きな拍手で彼らは祝福された。

これこそ、アカデミー賞の感動の瞬間だ。国内の受賞はなにか、皆スピーチが同じようであったが、ギャビン・フッド監督のこの喜びの表現と若い役者たちへの思い入れは人々の心を揺さぶった。

50年代の小説を現代に置いて作られた映画で舞台は南アフリカヨハネスブルグのスラム街。孤児たちはドラム缶の積み上げられた蚕の棚のようなところに住む。そこで生き抜いていくためには盗むより他ない。主人公もまたエイズの孤児として一人で育ってきた。そんな少年ギャングがカージャックをして車の持ち主を撃ってしまう。その車の後部座席に赤ちゃんがいた..という映画。その赤ちゃんをとうして、彼は命の価値に目覚めていく。

この映画の批評家の採点は「 C+」だったが、yahoo!users一般の採点は「 A-」であった。批評家の採点より、一般の評価のほうが、素直であったということではなかったろうか。批評家が何をいおうが、このアカデミー賞でのギャビン・フッド監督のスピーチ場面を見れば、いかに精神こめてこの作品が作り上げられたか、白人でイギリスの英語をしゃべる監督が、黒い肌の子役たちといかに一体となってこの作品に取り組んだか。それはひしひしと肌で感じることができる。

人種差別というのは言葉ではだれでもいけないと言う。でも言葉だけではむなしい。異人種と一緒に共同作業をして、仲間としての連帯感がもてること。これが一番大切なことではないかと思った。

南アフリカでは今、監督始め出場者の帰りをお祝いでむかえる用意を盛大にしているそうだ。特に昨年、南アフリカの作品「Yesterday」(HIVの女性の話)がノミネートされながら惜しくも賞を逃したことから、今年の受賞はひとしおのようである。アパルトヘイトで世界中から孤立していた国だけに、今回の受賞を期に地元の映画制作産業の飛躍を期待しているとのこと。すでに「ミリオン ダラー ベイビー」の名脇役モーガン フリーマン出演の映画の制作が進んでいる。

今年のアカデミー賞はなにか、どの作品ももうひとつ...というものがあったが、外国語映画賞「ツォツイ」と、ドキュメンタリー部門で「皇帝ペンギン」が受賞したのが個人的にはおおきな喜びであった。
また、助演女優賞に『ナイロビの蜂』(The Constant Gardener)のレイチェル・ワイズ も嬉しかった。彼女もこの映画では白熱の演技であったし、映画自体も英国のアカデミー賞に匹敵する賞でトップの座を獲得したとか。ボランティアーの限界を突きつけられ、アフリカを食い物にする先進諸国と、国連の腐敗にも触れていた。

いつも主演を演じる 絶世の美男子ジョージ・クルーニーが『シリアナ』で助演男優賞、いつも変人みたいな役をこなす地味な演技派、フィリップ・シーモア・ホフマンが『カポーティ』で主演男優賞を受賞したのもなかなか興味ある現象であった。

例年、アカデミー賞でのスピーチのコンテストが事後にあるが、今年のベストは是非、外国語映画賞「ツォツイ」のギャビン・フッド監督のスピーチが選ばれてほしいと願っている。

作品賞:『クラッシュ』
外国語映画賞:「ツォツイ」Tsotsi(南アフリカ
長編ドキュメンタリー賞:『皇帝ペンギン
長編アニメ賞:『ウォレスとグルミット

監督賞: アン・リー『ブロークバック・マウンテン』
撮影賞:『SAYURI』(Memory of Geisha)
編集賞: ヒューズ ウインボーン Hughes Winborne『クラッシュ』

主演男優賞: フィリップ・シーモア・ホフマンカポーティ
主演女優賞: リース・ウィザースプーン(写真)『ウォーク・ザ・ライン
助演男優賞ジョージ・クルーニーシリアナ
助演女優賞レイチェル・ワイズナイロビの蜂』(The Constant Gardener)

録音賞と音響編集賞:『キング・コング
作曲賞:『ブロークバック・マウンテン』

衣装デザイン賞、美術賞:『SAYURI』(Memory of Geisha)
メイクアップ賞:『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女